人手不足でも「35歳からの転職」が難しい本当の理由

パーソルキャリア(東京・千代田)が発表した7月の中途採用の求人数は前年同月比13.3%増え、2008年に調査開始以来の過去最高を更新しました。しかし、これだけ人手不足感が高まっても、なぜか年齢が上がると転職が難しくなるのが中途採用市場の実態です。

特に35歳を境に一気に求人数が減少し、40歳、45歳と年齢が高まるにつれ厳しさを増していくのは実は昔からさほど変わってはいません。需給の問題と言ってしまえばそれまでですが、今回は、年齢が上がると転職が難しくなるという記事を読んだ上で論評を踏まえてご紹介していきたいと思います。

今日の目次

  • 安定志向に潜む重大なリスク
  • 選択肢を一気に狭める「希望条件の掛け算」
  • 成否のカギは「相場を読み、条件を捨てられるか」

■安定志向に潜む重大なリスク

転職を考え始めた方、特に転職経験が少ない方に共通する一つの傾向として、「安定性の高い会社に就職したい」という希望を明確に打ち出す方が一定数おられます。その希望はすごくよくわかります。私がまさにそうでした。不安定やハイリスクを避けたいというのは当然の心理なのですが、そこで求めている「安定性」を突き詰めていくと、たいていの場合、以下のような企業や組織を希望する(それ以外は希望しない)という結論になっていきます。

●企業規模が大きい
●上場している
●知名度が高い
●会社に歴史がある
●官公庁や公的組織である、など

こうした要素を持った企業や組織は、たしかに一見安定性が高いように見えますが、現実には「安定した基盤を持つ会社」が「安定的に働ける職場」とはいえないことが多いのが現実と記事にはありました。でも、私はいま働いている企業が公的組織なので、そんなことは無いと断言できます。

テレビドラマなどでもよく取り上げられるので、たくさんの方がご存じだと思いますが、大企業や大組織にはピラミッド型のヒエラルキーが厳然と存在します。それは間違いないですね。同期入社が100人いたとしても、年次を経るごとに人材選別が進み、出世の階段を上がるごとに人数が絞られ、競争に敗れた人は出向や転籍などで社外に排出されていくというシステムになっています。2年程度の出向期間を経て、転籍を迫られ、転籍先次第では年収が大幅にダウンすることも避けられないようです。

でもそれは大企業のバリバリの民間企業の場合です。公的組織や半官半民企業などは基本、「年功序列」。大して競争しなくても、ある程度の地位までは行かせてくれます。それがメリットといえば、メリットでもあり、デメリットといえば、デメリットなんです。具体的には、ダメな人でも上の立場になっちゃうからです。

あくまで、こう呼びますが、「バリバリの民間」では、30代後半から選別が激しくなるケースが多いようですが、そもそもそんなピラミッド型の組織では、中途採用を積極的にすること自体が少ないだけでなく、10年以上も同じ釜の飯を食った同期同士で出世競争が行われている中に、外部から新参者が飛び込んでも勝ち目は少ないと考えるほうがよいでしょう。希少なスペシャリティーがあれば別ですが、そういう能力があれば、わざわざ硬直化した大企業に入らなくても選択肢は豊富にあるはずです。

つまり、35歳を超えてから「安定した職場がいいからバリバリの民間の大企業に転職しよう」と考えること自体が、募集がきわめて少ない狭き門である上に、入社した後に過酷な競争に巻き込まれてしまう、リスキーな選択となる可能性が高いわけです。

なので、安定した職場がいいと思う人に私が勧めたいのは、

「そんなに大きい会社じゃない公的機関や半官半民的な企業」です。これでうまく採用を勝ち取れば、競争も激しくなく、キャリア採用の場合がほとんどなので、安定と比較的地位のある将来は確立されるでしょう。

■選択肢を一気に狭める「希望条件の掛け算」

40歳前後の世代で、ある程度経験を積み上げた方の場合、「安定した会社」という選択肢以外にも、「役職・ポジション」「ワークライフバランス」「年収水準」など、できれば前職以上、最低でも前職水準をキープしたいという方が多くおられます。住宅ローン、家庭・家族の事情、将来不安、教育や介護資金など、一家の大黒柱として、また世代的な宿命として、大きな責任を負っている方も多いので当然の条件かもしれません。

ただ、40代が収入のピークになるという業種や職種も多い中で、「部長以上の役職で探したい」「できるだけ残業は避けたい」「年収は前職より増やしたい」といった外形的な希望条件を満額回答でかなえる転職のチャンスはそう多くはありません。希望条件を一つ一つ見ていくと、前職を上回る人よりも下回る人が目立ち始めるのが40歳という転換点です。希望条件を掛け合わせることにより、選択肢は指数関数的に一気に狭まってしまいます。

そもそもなぜ転職を検討しているのか、という原点に立ち戻り、転職で解消したかった課題を絞って(多くても3つ以内に)、まずはその解決を中心に置いて、必須条件を絞り込むようにしていただくのがよいでしょう。「あれも、これも、全部欲しい」という条件重視型の転職になると、活動自体がフリーズしてしまいかねません。それでも条件を重視したいという場合は、本当に転職する必要があるのかどうかを再考することをおすすめします。

■成否のカギは「相場を読み、条件を捨てられるか」

当たり前の話ですが、転職は需給で決まります。また、一人ひとりのキャリアがまったく異なるがゆえに、一般論としての正解がどこにもありません。なので、今回の話も絶対に正しいと鵜呑みにしてはいけないとお伝えさせて頂きます。

個々にとっての正解や先例がないという状況、かつ一人ひとりの「転職に成功すること」の定義が異なっているにもかかわらず、「転職に成功した人のストーリー」や「こうすれば転職に成功する」というノウハウ情報は、そこら中に氾濫しています。インターネットはもちろん、身近な知り合いの中にもそういう情報があるかもしれません。ぜひ、他人の転職成功談に振り回されず、自分にとってベストな選択ができるよう気を付けていただきたいと思っています。

人生にとって重要度が高いにもかかわらず、頻度が少なく経験値が不足しがちな転職だからこそ、「本当に大切なこと」だけをMUST条件として、「できればこうあってほしい」というWANT条件とは切り分けて考えましょう。また、転職エージェントだけではなく、友人、知人、転職経験のある人、人を採用したことがある人など、できるだけ多様な立場の人から多角的なアドバイスをもらえるよう相談してみることをおすすめします。私も少しでも力になれたら幸いです。

残りのキャリアを、自分で納得できる時間にするために、ぜひ多くの情報を吸収して選択眼を広げていただきたいと思います。

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