11月22日は、いい夫婦の日 いい夫婦とは無縁の 離婚慰謝料と不貞慰謝料について解説

 今日は、いい夫婦の日。いい夫婦の方には縁のない話題ですが、夫婦に関する問題の記事がありましたので、敢えてご紹介したいと思います。

 夫の不倫が原因で、いま離婚協議中です。不倫相手に対しても慰謝料を請求しないと腹の虫がおさまらないと思っていたところ、最高裁で「不倫相手に対する離婚慰謝料は認められない」という判決が出たと聞きました。不倫相手に対する慰謝料請求はできないのでしょうか。

■最高裁が初判断

今年の2月19日、

「離婚の慰謝料、不倫相手に原則請求できず」最高裁初判断

などの見出しが新聞各紙で報じられました。記事を読んだ人は一瞬「えっ?」と思われたのではないでしょうか。新聞の第一報があまり詳細でなかったこともあり、正直言いまして、私もどういうことかと不思議に思いました。

 夫または妻が配偶者以外の異性と性的関係を持つことを世間一般には「不倫」と言っていますが、民法は「不貞」と呼んでおり、民法が規定する離婚原因の代表です。不貞行為をされた配偶者は、相手配偶者に対して離婚の請求をすることができ、さらに、その不貞行為で離婚を余儀なくされ、離婚そのものによる精神的苦痛を被ったことを理由として相手配偶者に対して慰謝料の請求が可能です。これが「離婚慰謝料」です。

 他方、不貞行為の相手方(不倫相手)について、判例は「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある」と解し、また、不倫を「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する」行為と位置づけ、不倫相手に対する慰謝料請求も認めてきました。これが「不貞慰謝料」です。

■慰謝料は「連帯債務」

 例えば、妻Aと夫Bの夫婦の離婚原因がBと第三者Cの不倫である場合、AはBに対して離婚慰謝料を求めることができるほか、Cには不貞慰謝料の請求も可能です。また、AはB・C双方を被告にすることもできます。若干ややこしいのは、この場合、不貞慰謝料はBとCとの共同不法行為であるとして、Bに対しても不貞慰謝料が認められます。

 つまり、理屈の上では有責配偶者Bに対する慰謝料請求権は、離婚慰謝料と不貞慰謝料の2本立てになるわけです。かといって、金額がダブルになっているかというわけではなく、離婚慰謝料であるか不貞慰謝料であるかは厳密に区別されず、トータル金額での「相場」感が形成されてきたと言えます。

 離婚に至る事情はまさに千差万別で、事案に応じて異なりますが、不倫があった場合の慰謝料の額はおおむね100万円から300万円のレンジで慰謝料が認められています(もちろん、500万円を超える慰謝料が認められる場合もありますが、1000万円を超えることはまれでしょう)。

 また、先ほどB・C双方に請求できると述べましたが、例えば、B・C双方に300万円の支払いが命じられた場合、AはBから300万円、Cからも300万円、計600万円もらえるというわけではありません。それは連帯債務(正確には「不真正連帯債務」といいます)となりますので、CがAに対して先に100万円を支払えば、その分だけBの支払い義務も消滅し、Bは残り200万円をAに支払えばよいことになります。つまり、BとCは2人で300万円の借金をAにしているってことなので、300万円さえ払えばいいってことなんです。

 ちなみに、不真正連帯債務ってなに?って思ったあなた。簡単に解説しましょう。

 不真正連帯債務は連帯債務の一種。先ほどの例を挙げて説明しましょう。連帯債務というのは、先ほどで言えばBとCがAに対して300万円を払わなければならないことをいいます。普通の連帯債務なら、例えば、AがBに対して、「払わなくていいよ」と言えば、300万円自体払わなくてOKになるのでCももちろんその恩恵を受けます。
 でも、不倫をして裁判を起こされた場合は不真正連帯債務となり、この不真正連帯債務というのはこのような恩恵を受けません。つまり、不真正連帯債務の方が、普通の(真正の)連帯債務よりも重い責任を負うってことです。不貞行為はしないようにしましょうね。

■不貞慰謝料、依然として認められる

 さて、今年2月の最高裁判決は、元妻に不倫されたあとに離婚した元夫が、元妻の不倫相手の男性に慰謝料を請求したという事案でした。

一審・二審とも不倫相手に200万円の慰謝料の支払いを命じていたのですが、最高裁は「離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄」であるとして「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」と判断し、原告は逆転敗訴となりました。

 この結論部分のみが新聞で速報として報じられたため、「不倫相手に慰謝料の請求ができなくなったのか?」との誤解が広がったわけです。

 しかし、今般、最高裁が判断を示したのは前述した離婚慰謝料と不貞慰謝料のうち「離婚慰謝料について不倫の相手方には原則として請求できませんよ」というものであって、不貞慰謝料については依然として認められるものと解されるのです。ではなぜ、事件の代理人は離婚慰謝料を選択して不倫相手に請求したのでしょうか。

■不倫関係知り3年以上経過、時効が消滅

 最高裁の事件は、報道を前提にすると、元夫は2010年には元妻と相手方との不倫関係を知ったとのことですが、長女の大学進学などを待って15年に離婚が成立したようです。

 民法の不法行為による損害賠償請求権は「損害及び加害者を知ったときから3年」で消滅時効にかかる旨、規定されています。したがって、不貞慰謝料だと不倫関係を知って3年以上が経過してしまっているので、時効消滅してしまっています。

 他方、離婚慰謝料については「離婚自体による精神的苦痛の損害賠償請求権については、消滅時効が進行するのは離婚成立時から」とする最高裁判例があるので、時効は15年の離婚成立時から3年となります。そこで元夫は、不貞慰謝料ではなく離婚慰謝料として不倫相手を提訴したのでしょうが、離婚慰謝料は認められず、結果として敗訴してしまいました。不倫関係を知ってから3年以内に提訴しておけば、不貞慰謝料としてすんなり認められていた事案であると思われるのです。

 元夫のかたは悔しいところですね・・・。もっと法律を知っておけば・・・と思ったことでしょう。民法は一番身近な法律です。いろんな事例に当てはめて考えれば簡単で面白いです。あなたもちょっとかじってみてはいかがですか?

■不倫相手への離婚慰謝料、認められる余地

 なお、最高裁も「離婚慰謝料は不倫相手が不当な干渉をした結果、やむを得ず離婚したなどの事情」があれば、不倫相手への離婚慰謝料が認められる余地を残しています。

 したがって、前述の例で不倫相手Cが妻Aに対して嫌がらせをするなどして執拗に離婚を迫り、AとBが離婚せざるをえなくなったようなケースでは、Cへの離婚慰謝料が認容される可能性もあります。

 以上述べてきたとおり、2月の最高裁判決によって、不倫相手への離婚慰謝料は原則的に否定されましたが、不貞慰謝料は今までどおり請求可能です。ただし、請求権は「損害及び加害者を知ったときから3年」で時効消滅してしまうので、早めの対応が必要ということになります。

■離婚慰謝料と不貞慰謝料、しっかり区別

 なお、「最高裁判決以後も今までの実務と特に変わらないが、消滅時効だけ気をつけましょう」という内容のコラムをよく見かけますが、本当にそう言い切ってよいかは疑問があります。

 前述の例で、AがB・C双方を被告にして訴えた場合、離婚慰謝料と不貞慰謝料という別の性質の請求が含まれていることになります。これまでは実務でもあまり厳密に区別されていなかったけれども、今回の最高裁判決はそこをしっかり区別しました。

 その結果、たとえばCが先に不貞慰謝料をAに支払った場合、Bとの関係でその分は減額されるのか、あるいは「Cが支払ったのは不貞慰謝料であり、離婚慰謝料はまだ残っている」として離婚慰謝料全額の請求ができる余地があるのかなど、考え始めると難しい問題があるように感じています。

 とにもかくにも、普段から知識を身につけて武装しておくことは非常に大切。あなたが損をしないためにも、本やネットで日頃から積極的に情報収集と自分磨きをしましょう。

 今日は、いい夫婦の日。ブログを見てくださっている結婚しているあなたが、今後も今回の記事とは無縁の夫婦生活を送れるよう祈っています。私は今日有給休暇を取りました。お互い素敵な日にしましょうね。

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