大企業より中小企業?スタートアップ企業?それとも「起業」?

スタートアップに新卒で入社するIT(情報技術)分野の若手エンジニアが増えています。最近では給与などの待遇面で大手企業に匹敵するスタートアップ企業が増えてきました。でもそれだけが理由ではありません。

今日は、東大大学院から今春に入社した「ITの秀才」たちにスタートアップを選んだ理由や入社後に感じた仕事の魅力を聞き、背景を探ってきた記事をご紹介します。

今日の目次

  • スパコンを自由に
  • 大手企業の内定を辞退
  • 能力主義
  • 非合理な風習は嫌
  • やりがい
  • 就社より就職

■「スパコンを自由に使える」

「会社のスーパーコンピューターを自由に使えて、思い立ったときにアルゴリズムを試せる」。東大大学院情報理工学系研究科を修了し、人工知能(AI)開発のプリファード・ネットワークス(PFN、東京・千代田)に入社した村井翔悟さん(24)は今の職場について、こう話しています。

村井さんは10代で国際情報オリンピックに何度も出場し、東大では総長賞を受賞。大学対抗プログラミングコンテストの世界大会で3位に入り、国内最大級のプログラミングコンテストで優勝したこともあります。

とんでもない経歴ですね。もう住んでいる世界が違う気がします。見えている世界も違うんだろうなあ。

彼は大手IT企業からも内定を得ていましたが、国際情報オリンピックの先輩であるPFNの秋葉拓哉執行役員(30)から同社の話を聞く機会がありました。基礎研究から産業応用に向けた開発まで手がける点や世界トップ級の技術力に魅力を感じたといいます。「待遇や会社の規模より、やるなら面白いほうがいい」(村井さん)。こう思って入社を決めたそうです。

プリファード・ネットワークスの村井翔吾さん
プリファード・ネットワークスの村井翔吾さん

PFNはスタートアップ企業ですがスパコンに重点投資しています。AIは膨大な計算が欠かせないため2017年からは毎年新しいスパコンを稼働させ、スパコン用の半導体も開発している。村井さんは自由な開発環境をフル活用する日々だ。将来は「指示しなくても人の意図をくんで動くAIなど、誰も開発したことのないものを作り出したい」。

東京大学新聞を基に東大の卒業生・修了生の就職先を追うと、変化が鮮明。ITの先端技術を学んだエンジニアを輩出する大学院情報理工学系研究科の修了生の就職先は、数年前までソニー日立製作所など電機大手が占めていました。

スタートアップ各社への就職者を数えると、08年度は2人しかいません。それが13年度に7人、17年度で8人と徐々に増え、今春の卒業生では約200人のうち1割弱の15人がスタートアップに就職しました。ヤフーと並ぶ「首位企業」ですね。

情報理工学系研究科でロボットの頭脳のアルゴリズムを研究し、博士号を取得した古田悠貴さん(28)もスタートアップへの入社を選んだ1人。宇宙作業ロボットを開発する日本発の企業GITAI(米カリフォルニア州)に勤め、東京・目黒のオフィスで試作中のロボットを開発しています。

GITAIとの接点はビジネスSNSの「リンクトイン」がきっかけでした。GITAIの中ノ瀬翔最高経営責任者(CEO)からメッセージをもらい、オフィスを訪ねました。事業内容には共感していましたが、ロボット開発を手がける大手企業の内定を選びました。

GITAIの古田悠貴さん

GITAIの古田悠貴さん

■大手企業の内定を辞退

しかし昨年の秋、内定企業はロボを開発する部署の縮小に踏み切りました。「大企業は量産ノウハウもカネも豊富だが、経営トップの考え次第で簡単に方向性が変わってしまう」と彼は痛感しました。内定を辞退し、ロボ開発の専業であるGITAIへの入社を決断。「内定辞退を伝えたら親は腰を抜かしていたが、妻が背中を押してくれた」と笑っています。

GITAIは国内外の宇宙機関が注目するスタートアップですが、フルタイムで働いているのは約10人。だからこそ「使ってみたい部品を自由に買って試せるなど、自分に裁量がある」(古田さん)。本業の研究開発に没頭できる環境を得て、自身の選択に間違いはなかったと感じているそうです。

今の時代、というかこれからの時代、同じ会社に定年まで勤める「就社」の意識は薄いです。重視するのは会社の安定性よりも仕事の面白さや経験を積める点。情報理工学系研究科を3月に修了した東耕平さん(26)はAI開発のLeapMind(リープマインド、東京・渋谷)にエンジニアとして入社しました。ディープラーニング(深層学習)を使い、取引先の課題解決を提案する仕事を担っています。

LeapMindの東耕平さん

LeapMindの東耕平さん

■「能力主義がうれしい」

東さんは大手企業に興味を持てませんでした。「大手は採用人数も多いし、配属部署の希望が通りにくいと先輩から聞いていた」。就職情報会社などの合同説明会などには行かず、自分で企業を探しました。リープマインドもネットで検索して面接を受けました。AI専門の研究チームがあり、自身の研究領域に関する仕事がしやすいと思ったためです。昨年5月に内定を取得しました。

実力主義の社風も気に入っているそう。リープマインドは新入社員に一律の初任給は出さず、能力への評価をすでに反映しています。まさに今時の会社ですね。

半年ごとに評価の機会があり「目標をしっかり達成できれば昇給するし、逆に達成できなければ減給も普通にある」(同社)。東さんは入社して初めての給料を手にしたとき「一律の給料をもらうよりも、自分の能力をちゃんと見てくれたと実感できた」といいます。

かつてスタートアップの給与水準は大手企業にかないませんでしたが、最近では大規模な資金調達もしやすくなり、格差はなくなりつつあるのが現状。むしろAIなど先端分野は若手の方が優れた技術を持つことも多いです。実力主義で自然に若手が高給を得られる環境も、IT人材をひき付ける背景です。

DeepXの吉田岳人さん

DeepXの吉田岳人さん

■「非合理な風習に縛られたくない」

新しいスタートアップ企業は、伝統的な日本企業が持つ「社風」や慣習がないこともプラスに働きます。

ロボットの自動制御技術などを開発するDeepX(東京・文京)に今春就職したAIエンジニアの吉田岳人さん(24)は「伝統ある企業で、非合理な風習に縛られたくなかった」と話します。確かにおっしゃる通りで、伝統とはよく言えばかっこいいのかもしれませんが、普通に考えて旧態依然として何の進化もない会社ってことですからね。私がいまいる会社だってそうです。

彼は学生時代はロボット制御AIを研究していました。日進月歩で新技術が開発されるAIの世界は変化がめまぐるしいですよね。大手では自分の研究分野に近いことを手がける企業がないうえに「新人研修や社内調整に時間をとられて動きが鈍れば、最新の動向からあっという間に置いていかれてしまう」と危機感を覚えていました。

DeepXの那須野薫最高経営責任者(CEO、29)は非合理なことはしない、意思決定が速いなど、エンジニアにとって魅力的な環境づくりを心がけています。那須野氏も東大大学院に在籍しており、若手AIエンジニアの目線で組織づくりをしています。大手企業がAIエンジニアの採用に苦戦するなか、吉田さんを含めて4人を新卒で採用することができました。

吉田さんは修士1年で外資系コンサルティング会社の内定を得て就職活動を終えましたが、インターンを経験したDeepXで那須野CEOから誘われます。入社の決め手は「顧客企業の経営を改革するよりも、DeepXで人手不足などの社会課題を直接解決したい」という気持ちでした。

■「やりがい」が大事

やりがいってつくづく大事だなって思いますね。彼は入社後すぐに重要なプロジェクトに加わりました。経営陣との距離感も近いこの企業。「CEOやCTO(最高技術責任者)にすぐにわからないことを聞けるし、提案を聞き入れてもらえる」。スタートアップならではのやりがいを感じることができていますとのこと。

素晴らしいことですね。うちの会社は、その点真逆。経営陣はプライドの高すぎる人が多く、どうしようもないです。会社を出ればただのオッサン、おじいさんなのに小さいところで偉そうにして哀れだなって私は思いながらそういう人には接しています。「一緒に働こう」っていう感覚じゃないんでしょうね。それが大事なのに。

さて、その反面、「ITの秀才」たちは自身の専門知識を生かせる職場や上司との緊密な関係、常に最新の技術に触れられる環境などを求めています。彼らの言葉はIT人材を採用したいスタートアップと大手企業の両方にとって、耳を傾ける価値があるでしょう。そしてもちろん、どの企業にもこのような環境が絶対に必要ですし、そうじゃない会社は今後は廃れていくでしょうね、間違いなく。

AI分野など先端IT人材の奪い合いが激しくなっているのを受けて、大手企業も待遇の改善に動いているのは皆さんもご存じの通りです。ソニーは2019年度から、AIなど先端技術に強い新卒社員の年間給与を最大2割増やしましたし、NECも学生時代に著名な学会での論文発表などの実績があれば、新卒生にも1000万円を超える報酬を支給する制度の導入を決めています。

「希少資源」の先端IT人材が、硬直的だった日本企業の組織のあり方を変えつつあります。今後は待遇だけでなく社風のあり方になどにも一石を投じそうですね。

そして、何より最近の大きなニュースとして、トヨタ自動車など日本を代表する大手企業から「終身雇用の維持が難しくなってきた」との声が出始めていますよね。不祥事などで業績が傾けば大手でも安泰ではない時代です。就職情報大手ディスコの武井房子上席研究員は「1つの企業で一生面倒を見てもらえないなら、大手企業でゼネラリストとして育てられるのはリスクが大きい。そう感じる若者が多くなっている」と現状を分析しています。

■「就社」よりも「就職」

今の就活生はバブル期に社会に出た保護者を持つ人も多いです。「大量入社のバブル世代は同期が多く、望んだ仕事をできなかった経験をした人もいる。スタートアップで早くから専門スキルを身につけて成長する働き方を子供に勧める保護者もいるのではないか」と武井氏は語ります。会社に就職する「就社」よりも、転職して自分のスキルを磨きながら働く「就職」への意識が高まっています。

さらには東大出身の起業家が増え、後輩たちを引き付けている側面もあります。動画解析人工知能(AI)開発のACES(エーシーズ、東京・文京)は約20人のメンバーのうち、社会人はなんと3人だけ。田村浩一郎最高経営責任者(CEO、26)も東大の博士課程に在籍中です。すごい会社ですよね。

学生主体の会社ですが、SOMPOホールディングス電通など大企業を顧客に持っています。田村CEOは「人材は非常に重要な経営資源」と強調。「インターンの時点からリモートワークを可能にするなど、働きやすい環境をつくっている」といいます。

優秀な人材を得るには人脈や地脈など、あらゆる手段を総動員することが必要なんですね。勉強になります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です